【会計】建設に要する借入資本の利子 (難易度:ふつう)
2017年07月8日今回は、会計と税務で考え方が違うところで、超有名な論点の一つの解説です。
「不動産の開発事業を行う場合に、その不動産の取得や建設に要する借入金の利子を取得原価に含めるか否か」
について会計と税務の両方の面でまとめたいと思います。
そもそも取得原価とは、ある資産の取得のために要した金額をいい、本体の購入価格に付随的な費用を加えた金額のことをいいます。そして取得原価の決定では、その付随的な費用をどこまで含めるかにより金額が変わってきます。
不動産の取得や建設に要する借入金の利子も、そういった付随的な費用の一つです。
まずは、税務から。
税務の考えはシンプルで、そもそも
「その資産を取得するために必要不可欠な支出は、原則としてその資産の取得原価に含めなければならない」
というスタンスです。
ですので「不動産の開発事業を行う場合に、その不動産の取得や建設に要する借入金の利子を取得原価に含めるか否か」でいえば、もちろん、原則として取得原価に算入します。
しかし、特例などにより、取得原価に算入せず費用に計上することができる付随費用があります。
(取得原価に算入しないことができる費用)
・関税以外の租税公課
・登記や登録にかかる法定費用など
・不動産の取得や建設に要する借入金から発生する資産稼働前にかかる利子
・その他(建設計画の変更により不要となったものにかかる費用など)
費用計上が認められている付随費用は取得原価に算入しない方が、法人税が少なくなるため一般的には費用計上を選ぶでしょう。(確定した決算において損金経理が要件)
ここで、「不動産の取得や建設に要する借入金から発生する資産稼働前にかかる利子」も取得原価に算入せずに、費用計上が認められているので、こちらを節税のため選ぶと思います。
次に、会計です。
会計では、その経済的実態が重視され、そもそも
「借入に伴う支払利子は財務費用であり、原価計算では原価性はないとされ、企業会計では営業外費用として計上すべき」
とされています。
ですので「不動産の開発事業を行う場合に、その不動産の取得や建設に要する借入金の利子を取得原価に含めるか否か」でいえば、原則として取得原価に含めず、期間費用として処理すべきとなります。
税務と考え方が真逆なんです。ハナからスタンスが費用計上なんです。
しかし、一方で不動産の開発事業を行う場合は、通常その計画の着手から工事の完了まで相当長い期間を要し、かつ多額の資金を必要とすることから、収益活動が始まる前に、その支払利子が膨大に発生し、損益を圧迫するという不合理に陥ります。出来上がる前に赤字になってしまいます。
そこで、その不合理を解消するため、支払利子を期間費用とせず、取得原価に算入してもいいよという特例を設けました。建前は「不動産開発事業の収益に、支払利子を合理的に対応させるため」です。
そして特例ですので、その要件が厳しめ。
すなわち、開発プロジェクトごとに特別に資金調達したものであり、かつ開発工事等の支出金と支払利子との間に密接な因果関係があるとされる場合に、原価性があることを特別に認めますよ、といったもの。
要件は、以下の全てを満たした場合に限ります。
①所要資金が特別の借入金によって調達されていること
②適用される利率は一般に妥当なものであること
③原価算入の終期は開発の完了までとすること
④正常な開発期間の支払利子であること
⑤開発の着手から完了までに相当の長期間を要するもので、かつその金額の重要なものであること
⑥財務諸表に原価算入の処理について具体的に注記すること
⑦継続性を条件としてみだりに処理方法を変更しないこと
上記7つの要件です。
「不動産開発事業を行う場合の支払利子の監査上の取扱いについて」(日本公認会計士協会 業種別監査研究部会 建設業部会 不動産業部会)から公表されています。
これは、昭和49年に公表され、学問としての財務諸表論の典型論点であるため、いまだ改定されていません。
以上のように、会計と税務の考え方が全く違います。
では、あらためて
「不動産の開発事業を行う場合に、その不動産の取得や建設に要する借入金の利子を取得原価に含めるか否か」
この点、実務上どうなのかというと、支払利子の原価算入はほどんど無いのかもしれません。すなわち、税務の「できる規定」を参考にしている会社が多いと思います。
よって、長くなりましたが、この論点、結論は、
「不動産の取得や建設に要する借入金から発生する資産稼働前にかかる利子」であれば、取得原価に算入せず費用に計上している、のが一般的である。
ということになります。
会計と税務とで考え方が違うというのは他にもたくさんあります。
また別の機会にまとめたいと思います。
それでは。
難易度 やさしい < ふつう < 少し細かい
難易度は、経理初心者~若手経理ご担当者の方くらいを目安にしています。